課題図書:びりっかすの神さま著者:岡田 淳 |
ぼくがこの本を読んだ理由は、表紙を見て、よれよれのスーツ姿で、羽をつけて飛んでいる男の正体が気になったからです。この物語は、転入生の始が登校初日に、空中を飛ぶ「びりっかす」を目げきすることからはじまります。まさにその「びりっかす」が、表紙にのっていた弱そうな男の人でした。
始が転入することになった四年一組は、担任の市田先生が競争をさせて頑張らせるのが好きだったので、席は成績順にならんでいて、勉強だけでなく、体育、読書、そうじ、忘れものや注意された回数まで、カードやグラフやテストで競い合うクラスでした。そして、生徒たちも、びりになった人をからかうようなつめたいクラスでした。もし、ぼくのクラスがこんなだったら、こわくて、きんちょうして、学校にいきたくなくなるだろう。よく、だれも文句を言わずに、毎日過ごせるなと思いました。
そんなクラスを心配して、「びりっかす」は現れたのかもしれない。びりっかすは、競争でびりになった人のところに飛んでいき、その人のはずかしい気分とかみじめな気分をエネルギーにしています。びりっかすの姿はびりになった人にしか見えなくて、姿が見えると、心の中で会話ができるようになります。びりっかすは、話しやすくて、びりの人によりそってくれます。次第に、始だけではなく、クラスのみんなもびりっかすに会って、心で会話をしたいと思うようになります。そして、はずかしいと思っていたびりをとる努力をするようになります。テスト中には、おたがいの心の声を聞きながら、分からないところを教え合います。ぼくは、テスト中に心の中であっても、話をしたり、答えを教え合ったりするのはルールに反しているのではないかと不安になりました。教え合うことで、最低点が0点ではなくなり、だんだんと点数が上がっていきます。最後にはクラス全員が満点をとり、最低点が満点になりました。その間、クラスのみんなは、同じ目標を達成するにどうしたらよいかを話し合ったり、休み時間には勉強を教え合ったりするようになりました。そして、ばらばらだったクラスが、まとまりだしました。
運動会の学級対抗リレーでは、びりっかすは、
「本気で、走れよ。」
と言ってみんなを応援します。クラスのみんなも、本気で走ることにしました。びりっかすも、一組のみんなも心を一つにして、応援し合い、必死で走りました。最後には、心の声を使わず、さけびながら応援していました。ぼくは、このしゅん間、ほっとしました。よいクラスになったな。もしリレーの結果が一位でなかったとしても、全員が力を出しきったことをたたえ合っていたと思う。びりっかすも、ぼくと同じように、もうこのクラスは大丈夫とほっとしたにちがいない。だから、姿を消すことにしたのだと思います。全員がびりになるという経験をして、心が通じ合いおたがいを高め合うことができるようになりました。もう順番にこだわったり、からかったりすることは決してないと思います。
このお話を読んで、ぼくが学んだことは、競争のあり方です。人に勝つためにとか、びりにならないように頑張る競争は、こわくて、はずかしい気持ちやみじめな気持ちを生むことになってしまいます。そして、おたがい角が立つ言い方をしてしまい、つめたい関係になりかねません。でも、ぼくの学校にも、運動会や持久走、計算大会や硬筆大会などいろいろな競争の機会があります。結果はやっぱり気になるけれど、ぼくがその競争で達成感を感じるのは、全員が本気で頑張った時です。そんな時は、自分の結果がどうであれ、友達の結果がよかったら、一緒になってうれしくなります。オリンピックでも、世界記録や新技が出たときには、ライバルの選手も集まってきて、みんなでよろこんでいたのを見ました。そんな競争だったら、楽しいと感じられます。
びりっかすは、勝ち負けではなくて、本気で頑張ることの大切さを先生や生徒たちに伝えにきてくれたのだと思います。そして、担任の先生の姿になって、みんなの心をつなげにきてくれたのだろう。休んだ後の市田先生は、よれよれで、つかれきった顔でした。でも、みんなにとっては、びりっかすのようにやさしい顔に見えたと思います。びりっかすの神さまは、次はどんな姿になって、どんなクラスを助けてくれるのかな。でも、ぼくのクラスは、来てもらわなくてもいいような仲の良いクラスにしたいです。
《講評》
始のクラスにびりの人によりそってくれる、びりっかすが登場したことにより、クラスがどのように変化していったのか、ていねいに読み取ることができました。冷たいクラスから、たがいに高め合うクラスに変化し、ばらばらだったクラスが一つにまとまり出したことを読み取り、びりっかすがあらわれた意味を見出せた点がすばらしいです。また、競争のあり方についてもつきつめて考えることができました。「人に勝つための競争はみじめな気持ちになり、冷たい関係を生む」「本気でがんばる競争は達成感をえられ、相手の結果がよかったらいっしょにうれしくなる」とのべ、のぞましい競争のあり方を考えられました。これからも本気でがんばる、たがいに高め合う競争ができたらよいですね。