読書感想文2020
S.Iさん/今の私たちにできること

課題図書:

潮騒

著者:

重松清

 時間は永遠に流れる。過去も未来も無限に続く時の流れの中で、自分の人生は四十二年前に不意に始まり、そして間もなく、不意に終わってしまう。
 人生はいつ終わりが来てしまうのか誰にも分からない。この物語の主人公、佐藤俊治にも、オカちゃんという人物にも終わりは突然やってきた。
 佐藤俊治は、医者に余命三カ月の宣告を受けた。俊治はその日、小学三年生から小学四年生の月日を過ごした町に立ち寄った。そこで、クラスのガキ大将だった石川と話をする。それは、オカちゃんという人物についての話だった。オカちゃんは石川と俊治の同級生だ。小学四年生の八月の終わり、俊治はオカちゃんに海に誘われた。俊治は誘いを断った。その日、オカちゃんは海で溺れて命を落とした。突然の別れだった。俊治は石川たちから人殺しと呼ばれた。オカちゃんの母親はオカちゃんを探し続けた。でも、オカちゃんが姿を現すことはなかった。それから三十年以上の月日が流れた。石川は人殺しと呼んだことを謝ったし、俊治だって石川の気持ちは分かっていたから許せた。石川と話を終えた俊治は駅でオカちゃんたち家族の幻想を見た。家族は幸せそうに過ごしていた。
 この本では、突然、佐藤俊治が余命三カ月だという宣告を受けた。そして、俊治が小学四年生の時、オカちゃんが死んだのも突然のことだった。特にオカちゃんの時は事故だったため、何の前触れもなく家族や友人の前から姿を消した。家族も友人も、もちろん俊治も予想できなかったことだ。俊治は人殺しと呼ばれたが、もちろんこの事故が起きたのは俊治のせいではない。いろいろな不幸が重なって起こってしまった事故なのだと思う。石川だって本気で人殺しだと思っていた訳ではないだろう。でも、友人との突然の別れを小学四年生の石川には受け入れることができなくてつい口走ってしまったことなのだと思う。オカちゃんの母親もそうだ。自分の息子との突然の別れを受け入れることはそう簡単ではなかったのだろう。正気を失ってしまっていた。そんなオカちゃんの母親をも元気づけようとした石川はやはり良い人なのだと思った。そして、石川は俊治にも絶対に生きろと言った。でも、実際、俊治がこの先長く生きていられる可能性は低いだろう。
 私たちが生きている世界では、いつ何が起こるか分からない。最悪の場合、命を落とすことにつながってしまうかもしれない。例えば、東日本大震災では、突然起こった自然災害で一万五千人以上の人が命を落とした。私たちに身近なことでいうと、新型コロナウィルスだってそうだ。二〇二〇年が始まった頃の私たちには、こんなにも大流行するなんて予想もされなかった。でも今、世界中で大流行していて、多くの人々が感染してしまっている。命を落としてしまった人もたくさんいる。だから私は、家族や友人との日々を大切にするべきだと思う。もし、今、私や家族の誰かが余命宣告されたり、家族の誰かが命を落としてしまったりしたら、きっと私は後悔すると思うからだ。家族には、今までいろいろ支えてきてもらっているにもかかわらず、毎日のように腹が立ち、冷たい態度をとってしまっている。そのことに対してもっと優しく接しておけばよかったなどと思うだろう。他にも後悔することはたくさんある。それなら、そういったとき、後悔しないように、これからの日々をおくるべきなのではないか。家族や友人には腹が立つことも、一緒にいて辛いと思うこともあるかもしれない。でも、家族や友人といるからこそ味わえている幸せを当たり前だと思ってはいけない。人は辛い思い出の方が心に残りやすいのだと私は思っている。でもそれは幸せなことを当たり前だと思っているからなのではないだろうか。それが当たり前ではない人からすれば、私たちの生活はよほど幸せなものだ。だから、幸せな思い出に目をむけて家族や友人への感謝を忘れずに一日一日を大切にする。それが、今、私たちがやるべきことなのだと私は思う。明日が保証されている人なんていないのだから。


《講評》

 まずはじめに、「不意に始まり不意に終わってしまう」主人公、俊治の人生を表す一文を挙げ「今の私たちにできること」を一貫して問う姿勢が伝わってきます。突然の親しい人との永遠の別れを受け入れられない人間の姿を本書からていねいに読みとっています。そしていつ何が起こるかわからない世界に生きている私たちの危うさを表現できました。東日本大震災やコロナ禍の現状を見据えて、自分の考えを確かなものにしています。そこから、今の自分にできることをしっかり考察しているところが良いです。日々の暮らしの中で、周りの人たちと関わることで生じる腹立ちや辛さについても、「人は辛い思い出の方が記憶に残りやすい」と述べた上で、「でもそれは幸せなことを当たり前だと思っているからではないか」と考えを深めています。だからこそ「家族や友人への感謝を忘れずに1日1日を大切にする」という結論が出せたのだと思います。「明日が保証されている人なんていないのだから」というIさんの最後の言葉は、誰の心にも響く力を持っています。