読書感想文2017
K・Iさん/失って得られるもの

課題図書:

解夏

著者:

さだまさし

 主人公の隆之は、東京で小学校の教師をしていた。しかしある日突然、光を見た瞬間に眼に激痛を感じる発作に襲われるようになってしまう。幼なじみの眼科医に検診してもらうと、ベーチェット病といういずれ失明してしまう原因不明の病気であることがわかった。婚約者である陽子には病気のことを告げず、陽子の父親に訳を説明し、長崎の母が住む実家に帰ることにした。だが、陽子は事情を聞きつけ、「自分も長崎に住む」と言い出すのであった。隆之は故郷の長崎で街の景色を目に焼きつけるため歩くようになる。
 私はこの本を読み始める前に、まず「解夏」というタイトルが目に止まった。「げげ」という読み方も、意味もまったく知らなかった。興福寺という寺の林老人は、解夏とは、修行僧が約九十日共同生活を送って行を積む期間の終わりの日のことで、失明した瞬間にその恐怖から解放される。そしてその日が隆之の「解夏」であると語った。きっと隆之の胸にこの言葉は響いたのだろう。
 隆之がベーチェット病の体験者の話が聞きたいと言い、黒田さんという六十八才になる「元」患者と会う場面がある。そこで印象に残っているのは、黒田さんが、失明するというのは、明るいところから闇に突き落とされるのではなく、乳白色の霧の中にいるみたいなものだ。光が見えるから暗闇が見え、暗闇は光が見えない者には存在しないものなんだ、と語ったところだ。こうして同じ病気を経験した黒田さんの言葉は隆之の胸に深く刻まれたのだろう。私もこの言葉には、考えさせられた。
 人にはやはり、弱いところもある。隆之が今まで心の底にしまっていた失明してしまうことへの怒りや悔しさ、不安などの様々な感情をこらえきれず、大声で叫び自分の弱さを初めてさらけ出す場面がある。しかし、誰でも自分が失明してしまうと知るのは、不安で恐怖に押しつぶされそうになってしまうと思う。陽子は隆之がいつか失明してしまうと知っていても、長崎に住むと決断したり、常に隆之を笑顔で懸命に支え勇気づける姿から、陽子の温かさや優しい人柄がよく伝わってくる。そんな支える側の陽子にも、不安や弱さはある。だけど、二人が初めて一緒に泣く場面では、言葉にはしていないが互いに自分の弱さをさらけ出し、本当の意味で心を通い合わせたように感じられた。
 失明して失うことは、計り知れないほど大きなものだろう。けれども、病気にならなければ、故郷の景色や思い出の場所を見て歩くこともなかっただろう。それに、陽子との信頼関係を本当の意味で深めることもできた。私が読み終わった後、少し切ない気持ちにはなったが、決して暗い気持ちにならなかったのは、失うことばかりではなく、得られることも大きかったからだと思う。
 最後の場面では、隆之の「解夏」が来てしまう。解夏が来ると、病気の症状は消え、失明してしまう日への恐怖もなくなる。でも、私は心のどこかで隆之に解夏が訪れないことを願っていた。やはり、解夏が来てしまう場面はとても悲しかった。けれども、帰り道に陽子が何の花だろうとつぶやくと、隆之は見えていなくても答えることができた。これは故郷の風景が自分の中に刻まれていたということだ。隆之はきっと嬉しかっただろうし、自分のこれからの自信になったことだろう。そして、隆之は一人ではなく、陽子や母、そして友人たちに囲まれているので、温かさに支えられながら、前向きに生きていくことができるだろう。隆之の未来に光が差し込んだようで、私も嬉しくなった。
 もしも私が、隆之と同じような立場になったとしたら、病気ときちんと向き合うことができたのだろうか。辛い現実を受け入れることができたのだろうか。そんな苦しい中で、黒田さんからの体験談や林老人から聞いた言葉を深く受け止め、前向きに生きていこうとしている隆之の姿に感動した。私のこれからの人生で試練が訪れたときに、きっと自分一人の力では乗り越えられないだろう。人は周りに支えられ成長しながら、生きていくということをこの本を読んで実感した。だから私も、人の悩みを聞くときは、相手と同じ立場に立って考えたり、温かく心にそっと寄り添える人になりたいと思う。


《講評》

 主人公の心情を思いやりながら、場面ごとにIさんが感じたことを丁寧に述べているところが良いです。全体を通して主人公を思いやる気持ちがあふれており、Iさんの優しさが伝わる作品になりました。失明の恐怖から解放されることを「解夏」ととらえた林老人の言葉への理解は示せているので、それが主人公にとってどのような意味があるのか、もう少し掘り下げて考えられるとより良くなるでしょう。最後の段落で、Iさん自身を主人公の立場に置き換えて考えられているところも良いです。主人公とまわりの人たちとの関係から、Iさんが今後、まわりの人とどう関わっていきたいかを示せるとなおよいでしょう。感想文から伝わるIさんの優しさが将来誰かを支えられると信じています。